Wall Art Festival in 猪苗代~プロローグ~ を開催しました

『猪苗代のワルリ画』

2016年11月。福島県耶麻郡猪苗代町に、インド西部の先住民ワルリ族の青年たちがやってきました。青年たちの目的は、「猪苗代のワルリ画」を描くこと。トゥシャール・ワイェダ、マユール・ワイェダ、ハルシャッド・ワイェダの3人は、数軒のお宅やお寺に民泊させてもらい、マタギの家系の人、野口英世記念館の学芸員、地域の風土・歴史を次世代に伝える語り部、他県から移住してきた人、高校生、小学校の校長先生など、猪苗代に暮らす人たちに話を聞かせてもらいました。

そして、地域で親しまれるお寺・長照寺や、はじまりの美術館、公立小学校の図工室といったパブリックスペースで公開制作。様々な背景の人々から聞かせてもらった話、自分たちの目でみた猪苗代の山々、湖、森、食べたもの、触れたもの、すべてを込めて2枚のワルリ画を完成させました。


「Paripurna Jungle(パリプルナ ジャングル)〜十全な森」

深い山の中の生きている心は、ゆっくり目覚めている。この深い森と磐梯山は、はじまりの時からすべての人々を見つめ、すべての物語をその心の中に秘めている。この山と深い森のように、私たち自身のできる限り深いところまで行こう。そして、私たちの中に秘められている物語を呼び覚まそう。


「Chala punha surwat karuya(チャラ プンハ シュルワット カルヤ)〜再び始めよう」

私たちの世界のこれまでを振り返ろう。 私たちはとても遠くまで旅してきた。月を踏んだ。
そして私たちは、自分たちの文化のために穴を掘った。その穴に私たちの過去を捨て去ってしまう前に ”私たちの始まりを見返そう。そして再び始めよう

絵:トゥシャール ワイェダ、マユール ワイェダ、ハルシャッド ワイェダ
サイズ: 1m × 2m キャンバス地に牛ふん、ポスターカラー
作品写真:石田宗一郎

アートを媒介にして地域文化再生へチャレンジ

2枚の作品は、猪苗代の廃校・旧山潟小学校を舞台に開催されたエキシビション・『ウォールアートフェスティバル(WAF) in 猪苗代〜プロローグ〜』にて展示。たった1日の展覧会に、500人を超える人々が来場しました。

稲作、狩りをする人々、囲炉裏のそばで語られる話、収穫祭、炭焼き、魚捕り、雪のある生活・・・WAFで展示された「猪苗代のワルリ画」は、第1世代(50〜70代の人々)が積み重ねてきた経験と知恵、引き継がれてきた話を第3世代(10代以下)につたえ、第2世代(20代〜40代)に子ども時代を思い出すきっかけをつくりました。同時に、見失われつつあるアイデンティティ、過疎化、モノカルチャー化などに由来する猪苗代町が抱えている課題も絵に含まれていました。


会場となった旧山潟小学校。山々に囲まれた学校は人口の減少により廃校になって10数年。

猪苗代を囲む山々が、人々の祖先であるかのようにその営みを見守ってきたこと。雪、川、湖をはじめとした自然からもたらされる恵みが人々を生かしてきたこと。「ここ猪苗代には生きていくための全てがあると思いました」という彼らの言葉は、新しい未来を選んでいくためのメッセージであるように感じられます。それは、インドの片隅で、自然と多様な生物にリスペクトを抱きながら稲作を始めとした農業を営むワルリ族ならではの視点からもたらされたものでした。

同時に、WAFを開催したことで、廃校になった学校に10数年ぶりに新鮮な空気が吹き込まれ、そこで再び物語が紡がれていく予兆を感じさせました。2018年に、このプロローグに引き続き、実際に旧山潟小学校の壁に壁画を滞在制作する「WAF in 猪苗代」本章を開催する予定です。

その時へ向けて、今回の活動で完成した作品写真と、そこに込められた物語、そして、滞在の日々を一冊に記した記録集を制作したいです。そのための資金を応援してください!