開催によせて(実行委員長:楠恭信)

実行委員長 楠 恭信

2年前猪苗代で行われたウォールアートフェスティバル(WAF)ふくしまin猪苗代~プロローグ~で、初めてワルリ画と出会い、インドの学校を舞台にした芸術祭ウォールアートフェスティバルを知りました。その時は猪苗代のホストの一人として、インドから来たワルリ画家、ワィエダ兄弟を家に泊めたり、翁島小学校とのパイプ役になり図工室で画を書けるよう依頼したりとの関わりでした。当時翁島小学校に通っていた子どもたちは、初めて会う「外国人」や「画家」という存在に興味津々で、すぐに言葉や文化の壁を越えた交流が生まれ、あっという間に仲良くなっていました。猪苗代の滞在中に完成した2つの作品「パリプルナジャングル」と「再びはじめよう」は、インドから来た彼らが、自分の目で見て、耳で聞いて、心で感じた猪苗代が描かれている力作で、見るものを引き付ける力がありました。この時「画」になることで言葉を超え、見る人も選ばないことにも気づかされたのです。

1年後、呼び寄せられるように今度は私が彼らの村に行きました。そこには数年前にWAFで壁画が描かれた学校があったのです。実際に訪れると、教室一面に鮮やかに描かれた中で子どもたちが授業を受け、給食を食べ、遊んでいる姿がありました。数年の経時変化によりアートは教室に完全に溶け込み、自然に子どもたちを包み込んで、それでも変わらずメッセージを発しているように感じました。それは、作品自体がその村との関わりの中で生まれているものというのも大きな要素かもしれません。そしてアートのもつ“力”は言葉では言い表せない領域であるとともに、目で見て、体で感じなければ伝えきれないものであると感じました。この時、日本で、いや猪苗代でWAFを開きたい、という強い思いが芽生えたのです。

猪苗代町では2年前に幼稚園の統廃合から始まり、3年後には中学校、そのあとには小学校の統廃合の計画も上がっています。そのこと自体は時代の流れでもあり受け入れるしかないとしても、それにより子どもたちが振り回される現実と受けるストレスの大きさを見過ごすことはできません。今回のWAFの開催は、そんな子どもたちの心に、感性に働きかけ、自分たちの学校や故郷を新たな視点で見つめなおす機会になると考えています。アーティストは学校に数週間滞在し一緒に給食を食べながら制作にあたります。子どもたちは学校生活を送りながら日に日に仕上がっていく作品を見るのです。完成後はその教室で授業を受けることもあるでしょう。猪苗代の豊かな自然や歴史の中で、さらに子どもたちとの交流によって作品が生み出される、その瞬間に立ち会えるのです。さらに、今回のプロジェクトは画が完成して終わりではありません。学校に残される壁画の存在が、新たな“つながり”や“きっかけ”を生むこともひそかに期待しています。そして、これを機会に地域にある学校の存在をみんなで考えてほしいとも思うのです。

 いよいよ、ウォールアートフェスティバルふくしまin猪苗代が始まります!これからアーティストが続々と猪苗代に集結し、学校という特別な舞台で、教室をキャンバスに作品が描かれます。10月27日にはワルリ画の公開制作(吾妻中)、11月3日、4日は完成した作品が一般公開(翁島小、猪苗代高、はじまりの美術館、和みいな)があります。ぜひ、ご自身の目で見て、体で味わっていただきたい。そして、猪苗代で起きようとしている新しい風を感じてほしいと思います。多くの皆様の来場を心よりお待ちしています。